こんにちは!チエモ事務局の山田です。
3月16日(土)に、「『クリエイターのための権利の本』重版記念!現場のクリエイター&編集者に聞く著作権セミナー」を開催しました。
当初2月に開催予定が雪のため延期となり、日程を変更しての開催にも関わらず、20名ほどの方にご参加いただいたセミナー当日の様子をレポートします!
『著作権トラブル解決のバイブル! クリエイターのための権利の本』とは?
講師の小関さん(右)、大串さん(中央)、齋木さん(左)
『著作権トラブル解決のバイブル! クリエイターのための権利の本 』(通称『権利本』)は、プロ・アマを問わずクリエイターやコンテンツ制作に従事する人が知っておかなければならない権利や法律について、具体的に「やっていいこととやってはいけないこと」「トラブルになってしまった時の対処方法」を紹介した本です。その内容は「わかりやすい!」「コンテンツ制作に関わる人なら必携」と評判を呼び、発売から2週間というハイペースで重版が決まったほど。セミナー当日も、書籍を持参して参加された方が複数名いらっしゃいました。
今回のセミナーで講師を務めていただいたのは、著者の一人でWebサイト制作ディレクションの第一線で活躍するクリエイターの大串肇さんと、『権利本』の企画発案者で編集者の小関匡さん。また、同じく著者の一人でエンジニアの齋木弘樹さんにも飛び入りで登壇していただきました!
著作権とは「ある程度コントロールするもの」
「著作権はクリエイターではなくても、ものを作れば発生するもの。一方で、侵害してしまう可能性もあるもの」と言う小関さんの言葉から講座はスタート。『権利本』に載っている複数の「著作権侵害で裁判になった事例」を紹介し、著作権侵害が認められたか・否定されたかを参加者が考えた後で答え合わせが行われました。
答え合わせの結果の中には、「えっ、こんなに似てるのに著作権を侵害してないの?」と驚くようなケースも。著作権に詳しくない一般人の印象と、法律の専門家である裁判所の判断が必ずしも一致しないことが意外でした。
一般人の印象と法律上の判断にズレがある大きな理由のひとつは、著作権が「全てを保護するのではなく、ある程度コントロールするもの」であるということ。全てのものに著作権を認めてしまうと、クリエイターの権利を守るはずの著作権が、逆にクリエイティブな創作活動を制限することになるからだといいます。
例えば、文字だけで構成されたロゴについて争われたケースでは「著作権は侵害していない」という判断が下されました。これを著作権侵害と認めてしまうと今後同様の字体を誰も使えなくなってしまうからだそうです。
その他に「被写体のポーズや構図」なども、似ているものを著作権侵害としてしまうと著作者以外のイラストレーターや写真家が同様のポーズ・構図を使えなくなってしまい、多くのクリエイターの創作が困難になってしまうため、似ていても「著作権侵害ではない」と判断されることがほとんどだそうです。
「パクリ」と「著作権侵害」は異なるもの
「普通の人が『えっ、パクリでしょ?』と思っても、法律の専門家には『いえ、著作権法違反ではありません』と言われたりすることもある」と齋木さん。「パクリ」と「著作権法侵害」とは違うもの、ということでした。
では著作権侵害にならなければ、パクってもOKなのか?というと、「そうではない」とお三方は口を揃えます。その理由は「著作権法違反よりも、社会的信用が失われる方がダメージが大きいから」。「パクリだ!」と一度炎上してしまうと瞬く間にSNSで拡散し、鎮火に時間がかかってしまうことが、何よりも大きな損失だといいます。裁判では「著作権を侵害していない」と判断されたケースであっても、「でも似ているし、無断でパクるような人と仕事をするのは避けたい」とクライアントが思ったり、ファンが離れてしまうことが考えられますね。
ただし、本来ならば著作権上は全く問題が無いはずなのに、パクリだと思われて炎上してしまうケースもある、と小関さん。例えば過去には、(トレースされることを前提に制作された)イラスト素材集をトレースした画像が「パクリだ!」と糾弾されてしまったことがあるそうです。クリエイター自身が著作権についての知識を持って、「これはこういう理由で問題ありません」と自衛することも、火の無い煙を大きくしないために必要だと感じました。
クライアントとのお付き合い
クリエイターの権利を守るためには、クライアントとの契約も重要です。でも、あまりガチガチに権利を主張しすぎると、発注側は「使いづらいな」と思ってしまうことも事実……。
小関さんは「本当の自信作なら『権利は渡しません』と言ってもいいかもしれないが」と前置きしたうえで、「あらかじめ『グッズ化して売れたらロイヤリティもらっていいっすか?』とメールでネタ的に念押ししておくとか、そういうやりとりがあったことをどんな形でもよいから証拠に残すのが現実的」とのこと。きっちりと契約書にまで盛り込んでしまうと、法務部を通さなければならなくなるなどの理由で、条件を合意してもらうことが現実的に難しくなってしまうそうです。
裁判では口約束でも契約として認められますが、そのためには「口約束した」という証明が必要になるそう。そのため、メールでの雑談のついでなどの形で、どんな条件で合意したかの証拠を残すとよいそうです。
なお『権利本』には契約書の雛形も載っています。契約書を結ぶ必要がある時はぜひ参考にしましょう!
引用を正しく使おう!
「引用を正しく理解すれば、著作権を侵害する可能性はかなり低くなる」と小関さん。公表された著作物は、正当な目的があれば、引用して利用することができるそうです。
例えば、テレビ番組のキャプチャー画面をインターネットに掲載すると、多くの人は「著作権侵害では?」と思うかもしれませんが、広い意味では引用に入ると判断できなくもないそう。例えば「その番組を批評・評論する」などの正当な目的があれば、引用だと認められる場合もあります。
ただし、引用として認められるためには、一定の条件を満たす必要があります。引用と認められるための条件については、『権利本』や以下の連載でも解説されていますので、詳しく知りたい方はぜひご覧ください!
引用のどの程度ならOK? 引用の5条件を理解して、正しく使おう! | 『クリエイターのための権利の本』(全6回) | Web担当者Forum
どこまでが「引用」の範囲なの?
引用については参加者のみなさんも気になったようで、「データを引用する際、どこまでなら引用してOKなのか?」という質問が寄せられました。
引用と言えるかどうかの線引きは、基本的に「主従関係が保たれているか」。自分の文章が「主」で引用部分は「従」、つまり引用よりも自分の文章が大部分を占める必要があります。一般的に、主従関係が破綻していたらNGとされることが多いそうです。
ただし、本当に結論を出せるのは裁判所だけなので、気になったら元データの発表元に聞いてみるのがいいのでは?とのこと。「『引用していいですか?』は、企業に正々堂々と問い合わせるチャンス」だと言います。小関さんは過去に書籍を作る際、引用したいデータについて著作権者の企業に問い合わせたことが何度もあるそうですが、断られたことは無いそうです(『その商品画像よりも新しい画像を使ってください』などの代替案を出されたことはあるそう)。
また、小関さんいわく「行政が出しているデータは基本的に転載OK」「引用の5条件を参照して『こういう理由で引用が成り立っている』と自信をもって言えるなら、自信を持って引用すればいい」とのことでした。
専門家を頼ろう!
気になる「自分が著作権を侵害された場合にどうしたらいい?」というお話も。
著作権侵害は親告罪(被害者の告訴があることを要件とする種類の犯罪)なので、侵害している相手に対して問い合わせができるのは著作権者のみです。問い合わせると途端に証拠を消される可能性があるため、問い合わせる前にキャプチャーなどの証拠を集めまくっておくことが肝心とのこと。
また、証拠を確保したら、専門家(弁護士か行政書士)に相談するのがおすすめだそう。その際には、法律の専門家の中でも「著作権に詳しい専門家」を探して頼ることが大切だそうです。
講師の小関さんは、過去に自分が編集した本を丸パクリされたことがあるそう。パクられたうえに「編集者が他の出版社に内容を横流ししたのでは?」という疑いの目が向けられ、結論が出る2週間ほどの間はとてもストレスフルだったそうです。そんな小関さんは「専門家に気軽に頼める空気にしたい」と力説します。
「弁護士への相談料は、だいたい30分5千円から5万円くらい。相談してストレスが無くなるなら、5万円でも安いものだと感じた。著作権を侵害した相手にも、『弁護士の〇〇さんに言われたのですが』と専門家の裏付けを示すことができれば、交渉を有利に進めることができる」と、実感を込めてお話しされていました。
違法DL規制法案について
セミナーでは、ニュースで話題になった違法ダウンロード規制法案についても触れられました。
結果として法改正は見送られましたが、改正案の主な内容は、現状は対象となる著作物と行為が「違法にアップロードされた音楽・映像(録音・録画)」と限定的なのに対して、「違法にアップロードされた著作物全般(複製) 」と、大きく範囲が拡大することでした。なお「違法にアップロードされたものだと知りながらダウンロードする場合」が規制対象となるのは、現状も改正案も変わりません。
これに対して小関さんは、「違法だと知らずにDLしたことを証明できるか?いざ厳しく取り調べされたら『違法だと知ってました』と言ってしまうのではないか?」と危機感を示します。小関さんは業務上、キャプチャ画像をPCに保存することが多いそうですが、いくら捕まる可能性が低いとはいえ、もし捕まった時には怖いな、と思うと、キャプチャをとる手がすくんでしまうそうです。
その他にもセミナーでは、TPPによる著作権の非親告罪化の話題も。法改正や国際情勢によって日々変化する著作権の最新知識をキャッチアップすることも、クリエイターには必要だと感じました。
質問に答えるよ!
当日はセミナー中にオンラインで質問を受け付け、セミナー後半で大串さんを中心に回答しました。ここでは印象深かった質問とその回答を2つ紹介します。
Q.あるメーカーの商品が写っている写真を撮影したら、その写真の権利は自分のものだと言えるのか?また、その写真をフリー素材として誰でも自由に使ってもらうことはできるのか?
写真の権利については、自分で撮影していれば著作権は自分にあると言えるそう。
ただ、それを誰でも自由に使っていいかどうかは、その商品の販売元であるメーカーに聞いてみた方がよいそうです。著作権的には問題がなくても、会社によっては「どう利用されるかわからないから、やめてほしい」と言ってきたり、商標を理由にNGとされる場合があるそうです。
Q.『権利本』の表紙の写真を撮って、今日のセミナーに関するレポートをネットに公開するのはOKか?
「出版社は一般的にNGにはしない、告知してくれる分にはありがたい」と小関さん。これは著作権がどうというよりは「出版社にとってメリットがあるからOKでしょう。それをNGにしたら、もうお前の出版社の本は宣伝しないぞ!ってみんなに言われちゃいますよね」とのことでした。
まとめ
セミナーの最後に、小関さんは「ここ1~2年で著作権に関する話は大きく動きがあるので、1年後に同じことが通用するかはわからない。基本となるのは『人の作品に敬意を払う、自分の作品を大切にする』という思い。いざとなったら専門家を頼りましょう」とコメント。
また、大串さんは「権利者と、それを利用する人との間でコミュニケーションがとれていれば、大抵のことは大丈夫」と締めくくりました。
じゃんけん大会&懇親会
セミナー最後のじゃんけん大会では、講師の皆さんよりご厚意で『権利本』と、権利本に登場するナカシマ723さんの漫画『勇者のクズ 』、そして小関さんが編集された新刊『Webデザイン・スタンダード 伝わるビジュアルづくりとクリエイティブの最新技法 』がプレゼントされました。賞品を勝ち取ったみなさん、おめでとうございます!
そして会場内での懇親会へ。ここでも参加者のみなさんから講師の3人への質問、講師の著作権に対する熱い思いがこもったトークともに止まらず、充実した夜となりました。
セミナーの内容は盛りだくさんで、このレポートで紹介しきれなかった話題もたくさんあります。もっと詳しく知りたい方は、ぜひ『著作権トラブル解決のバイブル! クリエイターのための権利の本 』を読んでみてください。
天候による日程変更にも関わらずご参加いただいたみなさん、講師の小関さん、大串さん、齋木さん、ありがとうございました!